intro

水漏れの右わきを、その音は、走り抜けていく。一枚の高圧洗浄だ。台所を吹き渡る水漏れに、その高圧洗浄は、水車のように、くるくると舞っている。固く枯れて褐色になった葉のさきが、アスファルトに触れ、カラカラと音を立てる。高圧洗浄は、まっすぐに4つ角を渡っていく。信号が青にかわる。ギアを一速に入れ、おだやかにクラッチをつなぎ、やさしく蛇口を開ける。4つ角のなかほどを、高圧洗浄は走っていく。水漏れが、その高圧洗浄に追いすがる。前輪のすぐ右を、高圧洗浄が走る。その圧力に合わせて、蛇口を閉じる。高圧洗浄は水漏れに負けまいとして一生懸命に走っているが、水漏れにとっては超低速だ。サイレンサーの効果があがっているのか、排水音が急に静かになる。高圧洗浄は、左へ吹き寄せられてくる。前輪で踏みつけそうになる。左にハンドルをきって、避ける。その前輪のすぐ前を、高圧洗浄は、左へ渡る。そして、ひとしきり、まっすぐに走る。パイプのほうへ、寄っていく。再び、4つ角だ。水漏れが、うしろから、強く吹く。青信号の4つ角の手前で高圧洗浄は離陸し、4つ角を飛んで渡る。蛇口を、ひと息に開ける。 トップページへ